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2004年4月
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2004/04/03(土) side A : 手 そして 時計
その日、病院で父の顔を見たのは、祖母と私だけだった。「変わり果てた姿」とは、こういうのを言うんだろうなって、思ったことをすごく憶えている。

お医者さまと葬儀社の人達が、色々努力してくれたのだけれど、結局、棺の父の顔は、白い布で覆われることになって、当たり前だけどその姿は誰なのかよく判らなくて、未だに父を野辺に送った実感が薄いことにも繋がっている様な気もする。ずいぶん後になって読んだ本で、縊死した人の顔は、たいていそんな風になるって事を、今は知ってはいる。

何度も何度も、声を上げて、棺に取りすがろうとする母を、祖母と私と、前は専務と呼ばれ、私達は**のおじさんと呼んでいた、父の元友人の三人でなんとか抑えて、読経は終わり、顔の見えない体を、供物の花を折って覆っていったのだけれど、すべて覆えるほどの花は無くて、そのことも、悲しかった。

棺を閉じる時、普通なら開いている顔の部分の扉も最初から閉じられていて、私は父の手を握ってみた。私が力を入れると、同じ力で握り返してくれて、笑いあい、繋ぎあっていた手は、冷たくて、力も無くて、父の手だという感触さえ、もう無かった。

その腕に巻かれていた時計は、今はベルトだけは変えて、私が巻いている。自動巻きのその時計は、それから止まったことは無くて、つまり、父が居た時から止まったことは無い。


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