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最新の絵日記ダイジェスト
2006/06/04 side A: ひさしぶり
2005/09/17 side A : ひまわり
2005/09/16 side A : 空 
2005/09/15 side A : そして
2005/05/23 side A : レースフラワー

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2005/01/30(日) side A: 違う季節の同じ場所
フロントで目礼する。

一瞬、驚いた表情になったコンセルジュは、すぐ仕事の顔に戻る。そのうち、仕事以外で来てみたかった場所なのだけれど、もう無理かなぁって、思う。

まだ夏のなごりが残る頃、同じお客さんと二度続けて外出で来た。

シーズンの終わった海辺のその場所は、もう静かな佇まいで、好むと好まざるとに関わらず、スタッフの人達と交流が生まれた。

まだ夏の花が咲くプールで、私は少し泳いだし、「サービスです!」っていただいた、二本ストローの立った南の島の海の色の飲み物を、一緒に飲んだ。

それは、切り取ったフレームからは、幸せなシーンに見えたのだと思う。

同じ場所、でも、違う季節で違う部屋。

見える景色は少し違って、すこし、寂しい。

2005/01/28(金) side A: あかいはな
髪を一本にくくって帽子をかぶり、お花に水をあげる。

乾いた北風の中で、お陽さまを浴びると、思ったより早く土は乾く。

「いつもきれいにしていてえらいねぇ」って、前の道を散歩する、杖代わりのカートを押す顔見知りのおばぁちゃんが、声をかけてくれる。そして、花たちを愛でてくれる。

「楽しみなんだよ、ここを通って花を見るのが」

この季節だと、駅に向かう道でも、垣根のそばにある椿と山茶花と、そしてプランターで揺れるパンジーとこの何年かで急に増えた、ガーデニングシクラメンくらいしか、見かけることは少ない。

東南に少し傾いた土地に建つ私の家は、冬でも一日陽が当たる。水さえ切らさなければ、お花たちは、元気にそれぞれの季節を咲き続けてくれ、外では凍えてしまう、母が育てた幾つかの花はは、今年もお部屋で冬を越す。

一度通り過ぎて、思い出したように戻ってきたおばぁちゃんは、カートのふたを開けて、キャンディーを3つくれた。

「いいこだね、あんたは。だからお花もこんなに咲くんだよ。」

ぺこりと私はお辞儀して、キャンディーをひとつ口に入れて、またお花に水をあげる。




赤い花が咲いている。

週末寒波が来るそうで、もし雪が積もれば、きっときれいな風景になる。

でも、次の日には、花は凍って枯れてしまうのだけれど。

2005/01/25(火) side A: 父を読むこと
街を見下ろす場所にその有名な洋館はあって、その場所から見える風景は傾く陽射しに染まる。

前の年、父の走った道を少し辿った。迷いながらも読み始めた、父の書き残した文字を追い、30年以上の時は経ているのだけれど、その残景に逢ってみたくて私は短い旅をした。

それから一年、密封された箱を一つずつ開き、父の様々な思いに触れ、父方の祖母の文字にも直接触れた。その時々には、その文字たちに驚いて、私の中で整理も出来ず、ただただ私は抱いて眠った。

去年の九月、私は入院した。

薬品の香りだけが濃い、無機質なまでに清潔な病室で、様々な大きさの、色も変わったノートを何度も読み返す。言葉は風景になり、感情になり、想いになって私を包む。

日付があるものも無いものもあって、どこが始まりで、どこが終りかもわからないシーンも多い。そんな続いているようで、別々な毎日が、すこしずつ私の中で流れを持つ。

去年の2月にまたこの日記を書き始め、それから何度も思ったことがある。何故、私はここに言葉を書き続けているんだろうって。

密封されていた父の言葉たちは、捨て忘れて私が見つけてしまった、死の直前の、恐らく誰にも読ませたくはなかった言葉や、見せたくなかった記録とは違い、やはり誰かに読んで欲しかったんだって思う。そして、その「誰か」は私だとの確信が今はある。

私がここに残している言葉たちは、家族や私に連なる人へ伝えたいものじゃない。きっと、知られたくも無い言葉だと思う。それは、恥ずかしいとか、隠したいとか、そんなものとも違っている。

家族は私と血は繋がっているし、とても大切だ。でも、今の私の家族は、母とその祖母と妹と弟で、私がもし生まれていなくても、きっと今日を暮らしている。

父がいなければ、私は居ない。それは祖母も母も、もういない祖父母達も同じだけれど、私が居なくて、存在しない家族はいまのところはいない。私が今の暮らしを選んで、ここに言葉を残しているのは、私が決めたことで、だれもそのことを引き受ける必要も義務もないんだと思う。

私はきっと、父からバトンを渡された。3人の子供の中で、両親を独占できた時間があるのは私だけだし、私が生まれて物心が付き、父が死ぬまでに二人だけで過ごした時間は、夜を除けば、恐らく母より多い。そして、私の生まれたことが、家族の今日を決めていた気がする。

父を私は読んでいく。それは娘である私だから。せめて私が知る事が、父が生きていた証のような気がするから。

私はいる。でも私のいることを知っているのは、私とこの日記を読んでいるみんなだけだ。私は誰かに私を読んで欲しくて、ここに言葉を残しているんだと思う。その言葉にやっと行き当たり、確信を持ったのは、洋館から祖母の街を見ていたときだった。でも、ここに書けるまでに、2ヶ月以上かかった。

現実の暮らしの中の、家族や誰か信頼できる人に、話してみたらって、アドバイスを何度もメールで、色々な方からもらった。背景や理由は色々で、私なんかのために、心をかけていただくことに感謝しながら、そうかなぁって思うこともあったのだけど、きっと私は一生誰にも、この暮らしの事を話すことはない。

私自身が、受け止め切れていないこの暮らしを、同じ現実の場所で、同じ時間の中で暮らす誰かに、一緒に背負ってもらうことはぜったい出来ないって思うから。

ネットの向こうで、ことばを受け取ってくれる、みんなにもう一度、ありがとう。

もうすこし、よろしく。

2005/01/24(月) side A: 私のいない風景
休日の朝は、焼きあがるパンと、カリッと炒めたベーコンと、エスプレッソコーヒーの香りで、朝が始まる。

ダイニングルームの白木のテーブルのまんなかには、背の低い水盆に、淡い色の庭のお花がアレンジされていて、それを囲んで5枚のナプキンが置いてあり、その前に座った5人は、みんな笑顔で「おはよう」って言う。そして、母の一手間入った、美味しい朝食を食べる。笑顔で。

サークルの公式行事に出かける妹は、チェックのスカートに紺のブレザーを着て、スクールネクタイが誇らしい。同じ学校を目指している、弟は、ちょっと眩しそうにそれに視線を投げ、次の週に迫っている受験の準備に、塾へ向かう。

おばぁちゃんは、日当たりのいい、自分の部屋の窓際に座って、もういくつになるのか分からないほど長生きな、猫を抱いてまどろむ。

残った二人は、おばぁちゃんに「海まで散歩に行くね」って声をかけて、玄関を開く。

水仙の香りと冬の陽射しが二人を包んで、目を合わせた二人は手をつなぐ。

海までの道沿いの家々にも、こんな寒い季節なのに、花々は溢れていて、ここに住む人達の、この街とそれぞれの家への想いが伝わってくる。

海は緑の混じる冬の色なのだけれど、陽だまりに二人で座れば寒くはない。

「いいお休みだね。」
「そうだね、幸せだね」
「結婚してくれて、ありがとう」
「こちらこそ・・・・」
「ゆかも、いればなぁ」
「どっちの?」
「どっちも」

きっと私のいない家族の今日は平穏だ。

おねぇちゃんと私が代わっていれば、「ゆか」が私でなけでば、私が「ゆか」なら、もっと早くいなくなっていれば、きっと幸せな今日がある。

自分で命を絶ってしまった父と、心を病んでしまった母は、私がいない風景なら、きっとこんな休日を過ごしていたんだと思う。

残った家族には、少しでも、平穏でいてほしい。

私がいる風景の中で。

2005/01/21(金) side A : 芽 
風は冷たいけれど、陽射しの中で、花達は色を増し、葉を伸ばす。

一番日当たりの良いところに置いている、植木鉢に芽が並ぶ。

確かこの芽は赤に白い縁取りのチューリップで、去年掘り上げておいた球根だ。

霜よけだけをつくってあげて、がんばってね、って声をかけてみる。

柔らかい風の中で、ゆっくりゆれていられるといいね。

春の光の中で、最初の蝶にあえるといいね。

ほんとはまだちょっと早すぎて、花が咲くかはわからないのだけれど。

2005/01/14(金) side A : 冬のひまわり
街路樹の根元の狭いむき出しの土に、霜柱が立っている。

暮れの雪に埋もれても、まだ花をつけようとしていたお庭に残っていた夏の花たちも、寒に入ってから、もうみんな眠ってしまった。

その雪の日に、ベランダの隅に置いていた、もう終わってしまったひまわりのプランターに、一本だけ青い葉を付けている株があることに気付いて、お部屋に入れてみた。

窓越しの晴天にも恵まれて、葉はどんどん増えて、花芽がついて、すこしずつ育って、開き始める。

思い切ってガラス戸を開いて見上げる空は、まぎれも無い冬の陽射しで、風はとても冷たい。

周りには、眠ってしまったひまわりだけが居て、違う季節に独りなんだと知る。

でも、咲いた。

咲いただけでも、嬉しい。

嬉しいと、思いたい。

2005/01/06(木) side A : 移ろう色 あるいは 光の通り道
青空のはてに、茜の色がさす。

冬枯れの木々は影のように立ち並び、その背には見たことのない色達が移ろう。

湧き立つ雲が、空を閉じ、閉じた隙間から光が空を割る。

影が赤に染まり、また影に戻る。

山の端に陽が隠れるまで、何度も何度も、色は移ろい、雲は形を変えていた

2005/01/05(水) side A : 道 
ジャンクションが近づいて、左の車線に寄る。

行き先案内の文字を確かめながら。

選ばなかった道は私の上にあって、思わず見上げ、そして振り向いてもみる。

分かれてしまった道を少し走ると、ジャンクションはもう過ぎ去った風景になる。

行き先は決めた。

決めたからこの道を走っている。

ゆっくり流れる川を遡るこの道だけれど、きれいな夕焼けに向かっている気もする。

夕焼けはすぐに消えるとしても、今は見ていたいから。


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