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最新の絵日記ダイジェスト
2006/06/04 side A: ひさしぶり
2005/09/17 side A : ひまわり
2005/09/16 side A : 空 
2005/09/15 side A : そして
2005/05/23 side A : レースフラワー

直接移動: 20066 月  20059 5 4 3 2 1 月  200412 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 月  200311 10 9 月  200212 10 8 7 6 月 

2004/08/29(日) side B:   鏡
絡み合うカラダが映ってる。

確かめながら、お客さんは体の向きを変えて、
自分の目からは見ることの出来ない部分を見ようとし、
私はちょっと体が痛い。

「見てよ、こんなだよ」

上半身を少し起こすと、
確かにお客さんの一部が私に刺さっているのが映ってる。
そして、深く刺さり、一度抜けて、また刺さっていく。

数え切れないくらい、その光景は見てきたし、
その時の私の顔は、お客さんが望む通りの顔をしている。

それが、そのまま映っている。

仕事が終わり、メイクも全部落とし、化粧水だけをはたいて、髪をくくり
もういちど、映してみる。

大丈夫、大丈夫。

まだ、ちゃんと私だよね。

でも。

そんな時の鏡は、自分に都合の良いように、ちょっと歪んでいるかも知れない。

2004/08/28(土) side A:   街 
階段を昇ると、踊り場のところから、もう雑踏を感じる。仕事で外出をするようになってから、この街は見慣れた街になった。

ぽかっと空いた時間は、外出の途中で鳴ったお客さんの携帯から始まって、大きな声の会話が終わった後、むっとした顔をすぐに収めて、

「一本分、一人で遊んでてくれる?飯も軽く食っといて」

って、いつもの笑顔で伝える。時間では無く、「一本分」。

前なら、待ち合わせのラウンジで待っていたのだけれど、アストラルで無くなったその場所は、なんだか馴染めない店になった。

警察署の前を通ってABCへ行くのもお客さんに教えてもらったけど、今は駅の横の書店に入る。文庫の新刊を2冊買って、名刺を取り出すスカウトさんを笑顔で振り切りながら、交差点を渡って、富士蕎麦へ入る。

「きつねならうどんだな」なんて思いながら食券を買って、髪を上げてさくさく食べる。

外に出ると、風はひんやりしていて、裏道をぐるっと回って表通りへ出ると、客引きのお兄さんと当番のおねぇさんと、スカウトさんが入り混じって、声を掛けている。

見上げる見慣れた看板が、今日は少し違って見える。

元気でね。ちょっとご無沙汰すると思うから。

交差点を渡って、ホテルへ向かう。

誠志堂書店が無くなった交差点には、まだなんとなく、慣れないなぁなんて思いながら。

2004/08/27(金) side A:   落陽
また必ず昇るはずなのに、夕陽は悲しい。

いつだって、キレイな夕陽を見送って、優しい眠りに包まれ、悪夢は目覚めれば終わるし、楽しい夢はいつか叶うか、叶えるためにがんばり始める朝が来る。

そうだって、思っていた。

明けない夜は確かに無いけど、覚めない悪夢は、あるのかも知れない。

2004/08/26(木) side A:   灯りを落として
扉を開くと、席は埋まっていて、マスターは電卓を持ったまま、目で合図する。

一度扉を閉めて、お客さんはラッキーストライクを取り出し、私は火をつける。

少し冗談を言って、三度煙を吐き出した時、扉は開き私達はBARに入る。

いつもと違い、恋人達ばかりが並んでいて、映画みたいに首をすくめるお客さんに、マスター以外は、視線も投げない。

恋人達のために、いつもより少し、灯りも落としてある。

「どうしたの?」
「取材なしで雑誌に紹介されてしまったらしくて。。。」

注文の時にお客さんとマスターは小声で話す。

「俺達も恋人の振りでもするか?」
「ふりしなくても、恋人に見えてるよ」

今日の私達は二人ともバーバリーのコットンスーツで、微妙に色が違う二着は、お客さんが買った。靴はヤンコのメッシュで、時計は私に合わせて、TUDERを付けている。
そういうのが、このお客さんは好きだ。

カウンターには、ロンググラスとロックグラスが並んでいて、混んでいるのに、マスターは手持ち無沙汰だ。

「じゃ、あれ。」

混んでいるカウンターに南の島のお酒が並ぶ。

シェイカーの音がして、一瞬お店が静かになる。

出来上がったカクテルのグラスを合わせ、そして、夜が始まる。

2004/08/23(月) side A:   天使
肌寒い雨の今日は”ひめすべりひゆ”の花は結局開かなかった。

暗い空の雨の狭間に、秋の虫達が無く。

こんなに突然、自分達の季節じゃなくなるなんて思ってもいなかった、夏の花たちは戸惑う。

「天使のトランペット」と言う名前を持つその花は、開くときから雨に打たれ、生まれてきた。

ぼくの季節じゃないんですか?

ぼくを待っていた季節じゃないんですか?

見回す景色はもう秋で、葉さえ枯れかけている。

気まぐれな天使は、そのトランペットは吹かなかったのかも知れない。

2004/08/22(日) side A:   いない
いつものように夜が明ける。でも、お陽さまはどこにもいない。

雨が降ることはあっても、お陽さまは毎日輝いていたし、暑さはずっと続いていた。

ひまわりたちは、毎日空を見上げ、もらった力で、たくさんの花を付けた。

でも、お陽さまが見えなかった日、冷たい風は吹き、ひまわりたちは花びらを垂れる。

夏は、なんだかずっと続く気さえした。

いない、なんてひどい。

いなくなるなんて、ひどい。

夢の中で、私が叫んでいる。そして目が覚める。

お陽さまは、また必ず顔を見せてくれるくれるけど、私が15だったときの夏の毎日は、もう戻ってくることはない。

2004/08/21(土) side A:   ぷかぷか と プカプカ
狭い水槽だけど、水の流れは作ってあって、その流れに乗って、ぷかぷかと浮かんでいるのを見るのが好きだ。

そんな時、ふっと思うことがある。

父が好きな歌に、「プカプカ」っていうのがある。その歌詞は、どうしようもない女の子に、振り回されている男の子の苦笑いと、そんな女の子が、不安の中から手を差し伸べて、愛みたいなものを確かめようっていう心が、サラリと描いてあって、私も好きな歌だ。

その歌に出てくる女の子は、ある意味少女の色をずっと持ち続けていた母とは対照的な印象で、父を読んでいく中で出会う、結婚前に一緒の時間を過ごした女の子達は、「プカプカ」に出てくる女の子に似ている。

父はきっと母を愛していた。

母は間違いなく父を愛していた。そして父を信頼し頼っていた。

父は母を守ろうとし、母との家庭を守りたくて懸命に生きて、そして死んだ。

母に出会うまでの父は、生い立ちのせいもあって少し斜に構え、不良っぽい色も強い。そして、そんな色の恋愛をしていた。


「プカプカ」みたいな恋だったら、自分を追い込まなくて済んだんじゃない?

母と結婚したって、もう少しは、ぷかぷか生きてもよかったんじゃない?


って、思ってみたって仕方ないんだけど。

2004/08/20(金) side A:   直前 あるいは もういちど
眠ってゆくひまわりの花と、生まれる直前のつぼみが並んで揺れている。そして、暑い昼間と、虫の声が聞こえる夜を持つ、季節が始まる。

そのルドベキアは、満開を迎える前に病気になってしまった。
病気を治すお薬をあげていたら、今度は虫に食われてしまい、虫を除こうとおもってあげたお薬はもう強すぎたみたいで、開かないつぼみを残して、茎は枯れていった。

本で調べて、ごめんねって言いながら、病気と枯れてしまったところを、切り取ってしまって、それから風通しのいい場所に移ってもらって、少しずつ元気になった。

もう一度咲き始めたお花は、ちょっと花弁が少なかったり、芯がいびつだったり、とっても小さかったりはするのだけれど、でも、ちゃんと咲いている。

ありがとう、がんばってくれたね。

キレイだよ、ほんとうに。

2004/08/19(木) side B:   竹林 あるいは 蝉の声
ヒグラシの声が湧き上がる夕日に染まり始めた空には、気の早いいわし雲が流れている。

あれほど強い陽射しの中で聞こえていたミンミン蝉の声は低くなって、六時を過ぎると、今日はもう夕暮れが始まる。

夏休みに入って、最初に入れた長い仕事は、初めて飛行機で移動する貸切外出だった。

その宿は、竹林の中にあって、どんな仕掛けになっているのか、古い蚊取り線香がくゆっているだけなのに、殆ど蚊は居ない。

着いてすぐから仕事は始まり、離れの露天風呂はどこからも見えないので、色々な形で、私達は交わる。

湯船で、洗い場で、テラスで、前から、後ろから、横から、考えられるすべての可能性を試してみるように、お客さんは私に刺さる。

もう10回以上外出はしているし、個室で交わった回数を入れれば、100回近くにはなっているはずなのだけれど、場所が変われば、また新しい性癖は現れて、すこし私は困惑もする。

お互いにツボはある程度判っているし、どのくらいの回数、復活できるかも暗黙の了解はあって、その限界まで私達は、交わり続ける。

「ふぅ、満腹だ。」

お客さんの合図で私も眠る。

朝は食事前にも交わって、布団を上げた後も、またお風呂で交わる。

竹の葉を透かしてしまうほどの太陽が照りつけはじめ、聞いた事の無い蝉が、「シャアシャアシャ」と大声で鳴き始める。

「あぁ、クマゼミだな、関東は少ないから」
お客さんが私の表情に気付いて、ポツリと言う。

テラスの端の椅子に、さっきまで身に着けたまま裾をあげて、交わるための小道具にもしていた浴衣が脱ぎ捨ててある。

「抜け殻」

なんだか、そんな言葉が浮かんだ。

2004/08/18(水) side A:  テキーラ+カンパリ+ライムジュース+スノースタイル=
初めて見る色のカクテルが、グラスにそそがれる。

「綺麗な色だなぁ、俺に?」
「いえいえ、彼女に」
「判ってるよ、わはは!」

そのカクテルは、無垢で気まぐれで、でも純な味がした。

「なんて名前なんですか?」
お客さんが、席を外した時にマスターにたずねてみた。

「味は貴女をイメージしたのですが、"レティーシア"ってどうですか?」
「私、こんなイメージですか?光栄です。」

グラスを上げて、もう一口飲んでみる。

前に、携帯が鳴ったお客さんが、なかなか戻って来ないことがあった。他にお客さんが居ないカウンターを挟んで、私とマスターは古いフランス映画の話をした。

LesAventuriersー冒険者たち

ジョアンナ・シムカスが演じる"レティーシア"と言う女性は、それはそれは魅力的だった。

「一万分の一でも、そのうち魅力的になれるように、頑張ってみますね。」

「千分の一以上は、今でも魅力的ですよ。」

BARの会話は、やはり面白い。

2004/08/17(火) side B:   癒しの風景 あるいは 戦場
朝霧は渓流に良く似合う。

テラスに出ると、凛とした川からの風が昇ってくる。お客さんはまだ眠っている。

夜は、この湯船では、ほとんど仕事をしていて、お風呂に入った気はしなかった。

ゆっくり浸かるお湯は温かで、早瀬を渡る水の音を聞きながら、もう何度目か数え切れないほど読んだ、安房直子さんの童話を開く。

遠くの方から朝餉の準備をする音と、薄い香りを僅かだけ感じた。

「癒しの宿」って、いろんな処に書いてあるその場所で、私は仕事をする。

少しは眠れるお客さんだったけど、泊まりの貸切は初めてで、今まで知らなかった性癖もたくさんあった。そして、私はそれを受ける。

起き上がる気配がして、ガラス戸が開き、お客さんがテラスに出てくる。

「もう一戦、いいかな?」

いたずらっぽく尋ねるお客さんの誘いを、断れる立場に私は居ない。

「もちろん!一戦でいいのかな?」

私も仕事の顔に戻って、いたずらっぽく応える。

そう言えば、前のお店のフロントでは、「完全S付き、時間内※回戦でお願いします」って言っていたなぁなんて、思い出した。

2004/08/16(月) side A:   楽園 そして 風
天頂の花が眠った後、ひまわりたちの枝花が開き始める。

小さなお庭だけど、小さな生き物達がいて、彼らの楽園がここにある。

草の茂みには、そこが好きな生き物がいて、ちょっとだけの芝生にはそこが好きな生き物がいて、木の根元や葉の陰や、そして土の中にもそれぞれの生き物がいる。

夏の花たちには、いろんな蜂たちも来るし、さまざまな大きさや色の蝶たちも訪れる。

長い夏がひと休みして、ひんやりとした風が吹く朝、見慣れた蝶と目が合った。

「楽園はもうおしまいですか?」

ちょっと、しかめっつらをした蝶は、知っていながらそんなことを、私に尋ねている気がした。

2004/08/15(日) side A:   夏 そして春と秋
終戦の日を迎え、犠牲になられた皆様、ご家族の皆様、それに連なるすべての皆様と、連なるはずだった多くの命に、心から哀悼の意を表します。




**********************

赤に染まり始めた、とんぼが乗る風には、つぎの季節の香りがある。

ひまわりが葉を伸ばし始め、朝顔がつるを巻き始めた頃、そのパンジーのプランターを日陰に移した。

花は少しずつ小さくなったのだけれど、新しい芽も顔を出し、この夏の日々、ずっと咲き続けてくれた。

朝顔のつるが、パンジーに伸びて一緒に咲いている。今年初めての、白いなでしこも咲いている。

春が夏に続き、秋へ続く。

今日という日は、もう無いけど、続いていることも忘れないようにする。

2004/08/14(土) side A:   もういちど、色 
昨日、のっけてあげられなかった、生まれたばかりの色のお花たち。

見てやってくださいね。

一瞬だけの色だけど。

2004/08/13(金) side A:   色 
お陽さまが強くなる前の花たちは、生まれたときの色でいる。

光に向かって伸び上がる花たちは、強い陽射しの中で色を増すこともあるけれど、朝の一瞬の時間だけ、ほんとの色でいる花たちも多い。

ホントはこんな色でした。

見てくれてありがとう。

2004/08/10(火) side A:   は た ち 
耳まで紅色に染めながら恋を語る友は、ほんとにいとしくて、思わず抱きしめたくなりさえする。

ほんとに久しぶりに、駅で偶然出会い、「遊びに行っていいかなぁ?」って言われた私は、うなずいていた。

小学校時代からの古い馴染みで、高校に入ってからも、たまには二人だけで話すくらいの近しさはあって、でも私のお家に大きな変化があってからは、なんとなく疎遠になっていた。

「ずっと心配だったんだ」と友は言う。「ちゃんと話さずにごめんね」って私も答える。

昔話から始まって、お互いの大学やサークルや、懐かしいあの日のことや、共通の知人の消息から始まった話は、いつの間にか恋の話になる。

想う男の子がいる友は、少しずつ話を進め、幸せを語り、不安を語り、そして恋の相手のスバラシサを語り、そして今までの恋を語る。

それは、ホントに20歳の暮らしで、まだ少女の香りのする友は、綺麗な瞳に星を浮かべて、楽しそうに話し続ける。

「今度は、うちに遊びに来てね!小学校以来だよね、きっと」

ドアを開けて、サヨナラの前に友は無邪気に誘ってくれる。

「ありがとう!連絡してね!私もメールするし」


少し時間がたって、メールが届く。
「両親も、しっかりゆかちゃんの事、憶えてたよ。是非遊びに来てって!(^^)/」

ありがとう。私も今日は20歳の女の子でいられました。

でもごめん。お家に遊びには行けないんだよ。

だって、友のお父さんは、私のお客さんなんだから。

2004/08/09(月) side A:   長崎 1945年8月9日 原爆 
その日、父方の祖母は家から離れ、早岐という町の親戚のお寺に疎開していた。

黒い雲に覆われてしまった長崎の町が、大変な事になっていると知り、親戚の制止も振り切って、両親と生まれたばかりの弟が待つはずの、お家に向かい、5日後にたどり着いた場所には、何も無くて、祖母は独りになった。

もし、その日、長崎でピカドンが光らなければ、恵まれた家庭でそのまま育ち、熊本の街で、「妾」と呼ばれる境遇になることは無かっただろうと、そして自分の人生も違ったものであっただろうと、父はずっと思っていたようだった。

偶然、私が原爆という事に興味を持っても祖母のことは、一言も父は語らなかった。

もちろん、幼い私には「妾」の意味も判らなかっただろうし、父が私生児だと言うことも、理解はできなかったと思う。

************************************

画文集 第二楽章 長崎から」(講談社)

「帰り来ぬ夏の思い」 下田秀枝 より引用

炎の雨の降り注ぐ中
ぼくは母さん探しています


回りがだんだん
熱くなってくよ母さん
ぼくのおうちは
どこへいったの母さん
さっきの話の
続きをしてよ母さん


母さん 母さん 母さん
早くここへ来て
ぼくを抱いて
もうじきぼくは
もうぼくでなくなるよ


目を閉じて ごらんなさい
見えるでしょう
炎と灰に埋もれる街


聞こえるでしょう
母の子供のすすり泣き
帰り来ぬ夏の
あの呪い あの思い

************************************

毎年その時間に私は黙祷する。そして祈る。

失われたすべての魂に、今も苦しみを抱えて暮らす、すべての人に。

父の母である人に。

そして、もう二度と、ピカドンが光りませんように。

2004/08/08(日) side A:   刹那の色 あるいは 闇に咲く花
またたきをすると、もう、その色はそこには無い。

その色の声を、聞く時には、もうその色はどこにも無い。

闇の中だから、その花は美しく、黒の中だから、その色は映える。

ひとしきり、空を染めて、花火は終わった。

もちろん、そこには、何も残っていない。

2004/08/06(金) side A:   一瞬の雨 あるいは 傷
晴れた空から、一瞬だけ雨が降る。驚いて見上げる空には、ひとつだけ色の濃い雲があって、急ぎ足で東へ向かっていた。

濡れる程では無いその雨粒は、花達に残ってしまい、昇ってくる太陽が当たると、花びらは傷ついてしまう。

雨粒はレンズになって、花びらを焼く。

誰も悪くないよね。

雲は雨を降らせるものだし、お日様はいつものように昇っただけだ。

でも花びらは傷つき、焼かれ、色を無くす。

傷つく前の今の姿を、憶えているね。傷ついても好きでいられるはずだし

2004/08/05(木) side A:   似ている あるいは パンドラの箱
幼い頃は、「ちっちゃいひまわりさん」と呼んでいた、小ぶりの花が満開を迎える。もちろん、今は、ルドベキアという名前を知っている。

妹や弟では、ちょっと手を触れる事が出来ない倉庫奥に、そして私の部屋のロフトにはまだ開いていないダンボールがいくつもある。

父が逝き、母がお家に居なくなってから、一人で整理する封のかかった荷物からは、私の知らなかった、いろんな事が出てきてしまう。

途中で止めようと思ったことが何度もある。何もみないで、どんどん破いて、ゴミ袋に捨ててしまおうと思ったことも何度もある。

母のと判る荷物には、一切手をつけてはいないけど、父の残した言葉から、母を知ることもある。

学生時代に知り合った母と父は恋に落ち、愛し合うようになった。

そして、結婚前に母は妊娠した。

最初の困惑と、すこしずつ固まっていく決心と、決心してからの新しい命への期待と、いとしさ、そして一緒に暮らす楽しい日々への想い達が、言葉として残っている。

名前ももう、男の子と女の子の名前が二つ決まっていた。

その名前は、私の名前なのだけど、その名前を考えてもらった、その命は、生まれる前に消えた。

私は似ているだろうか、その生まれなかったおねぇさんに。

そして、父と母が想った、その名前の娘と楽しく過ごす日を、少しは私とで、過ごすことはできたのだろうか。

2004/08/04(水) side A:   ねこさん そして ねこひげさん
門灯の灯りの中で、いつもよりずいぶん早く、ねこひげの花が開き始める。

ちっちゃい私をあやすように、写真の中のねこさんは優しい顔で座っている。

母が娘の頃から一緒にいたそのねこさんは、お嫁に来るときもいっしょに来た。

少しだけの私の記憶の中と、母のアルバムの中には、たくさん、そのねこさんはいる。

そのねこさんは、ちょっと目つきが悪くて、ちょっと太っていて、ワチフィールドのダヤンに似ている。でも、私のそばにいるときや、母に抱かれて写っている写真では、ほんとに優しいお顔をしている。

私が病気で、ねこの毛に強いアレルギーがあることが判った時の母の困惑は、想像に余りある。

ねこさんは、母の友人の家で3年を過ごし、そして逝った。

私はそのことをずっと知らなかった。突然もらわれていったねこさんが恋しくて、母や父に泣きながら「返してよ!」ってなんども言ったことを憶えている。

母が自分の世界に入っていった時、母は私に言った。

「あなたが病気だったから、ねこさんは行っちゃったんだよ。ずっと仲良しだったのに。」

ねこさん、ごめんね。恨んでますか?私のせいで、一緒にいられなくなったことを。

ねこさんが、ずっと母のそばにいてくれたら、母は元気で、父は今でもいましたか?

私が弱く生まれついたことで、いろんなことが変わってしまった。ごめんね、みんな。

秋の初めの、お庭には、いつもねこひげのお花が揺れていた。ほんとに、ねこさんのおひげにそっくりな花が。

2004/08/01(日) side A:   むくげたちの朝
すこしずつ、光が近づいてくる。

光を浴びる前にって思うのか、満開のむくげたちが、競って花を開こうとする

無理しちゃだめだよ。今日はまだまだ長いよ。

強い雨の日に、花びらを切り裂かれてしまったきみたちの仲間たちが過ごした日より、今日はきっといい日だよ。

でも、虫さんに食べられちゃって、開くことができなかった仲間のことも、ちょっとだけ想ってね。

もし、ちょっとだけ、今日がいい日だと思えたならば。


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