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最新の絵日記ダイジェスト
2006/06/04 side A: ひさしぶり
2005/09/17 side A : ひまわり
2005/09/16 side A : 空 
2005/09/15 side A : そして
2005/05/23 side A : レースフラワー

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2004/09/30(木) side A:     猫 あるいは 待つ
精算を済ませて、ぺこりとお辞儀をして、お店を出る。二日分だけ欠けた月は、ネオンの街の中でも、私の影を伸ばすほど明るい。

なんだか、お家に帰る気がしなかった。

私が帰るまでは灯っている門灯はあるけれど、一人で鍵を開け、音に気を配りながらお風呂につかり、久しぶりの晴天に頼んではみたけれど、この前と同じで、取り込むのを忘れられているお布団の、ちょっと湿った感じを思い出す。

そうだよね。妹も弟も忙しいし、私だってあの年ぐらいの頃は、自分の事で一杯で、父さんや母さんに頼まれた、ちょっとした用事も忘れていたっけ。

コンビニへ寄って、読みたくも無い雑誌を開く。一冊、二冊、三冊。

時計は少しずつ進んで、終電車はもう無くなる。

そして、四冊、五冊。

店員さんの空咳にちょっと追われて、ジャムとバターを塗っただけのコッペパンとミルクティーを買い
「長いことスミマセンでした」
って、開く自動ドアの向こうからは、秋の風が吹き込んできた。

ちょうど、ソープ街のネオンも落ちて、急に暗くなる道にはもう人影も少ない。携帯を取り出して、行きつけのビジネスホテルの電話番号を呼び出して、でも、もう一度閉じる。

「公園にはホームレスさんがいるしなぁ」なんて思いながら、駅寄りにある、ちょっとした空き地を思い出す。古いお家はひと月ほど前に取り壊されて、周りは鉄のパイプで囲まれているだけになっていた。

たどり着いたその場所は、低いビニールシートで覆われていて、ひょいとめくると、まだ中には何も無い。榊と注連縄の跡があるけど、まだ工事は始まっていなかった。

パイプの間をすり抜けて、そのまま道を背にして、腰をおろして、パンにかぶりついて、ミルクティーを飲む。

「今日も疲れたね」って、つぶやいてみた時に、「にゃーん」って声がする。ちょっと距離を取ってはいるけれど、その声のするところには、母がずっと仲良しで、私も大好きだったねこさんに、そっくりな猫が私を呼んでいる。

「ねこさん?」
「うにゃ〜ん」
「って、ねこさんのはず、ないよね・・・」

目線を落として、少し手を伸ばすと、猫はゆっくり近づいてきて、背中を上げて、体をこすりつけてくる。

「撫でてもいい?」
「うにゅ〜ん」

首輪はしているのだけれど、抜けそうなほど緩んでいて、迷子札の字ももう読めない。目やにをぬぐうと、もう一度背伸びをして、ごろんとおなかを見せてくれる。

「少し食べる?」

パンをちぎって差し出すと、猫は背中を見せてスタスタ歩き出す。

「いらないの?」

振り返って、「にゃんっ!」って小さく呼ぶ声に、私もついていく。空き地の隅のちょっと細くなったところに、お皿が二つ置いてある。そしてその奥には、ビニールの掛かった、みかん箱がある。

「きみのお家なの?」

「うにゅん!」
右のお皿に、パンを乗せようとすると、猫は哀しそうになく。
左のお皿に、パンを乗せると、猫はきちんと座って、長いしっぽをゆらゆら横に振ってから、美味しそうに食べ始める。

牛乳は猫に良くないことを思い出して、右のお皿にかばんから取り出したコントレックスを注ぐと、ごくごく飲む。

「お行儀いいんだねぇ」
「にゃん!」

きっと、そんな風に食べると、ほめてもらってたんだね。そしてほめてもらえるのが、とっても嬉しかったんだね。

ごめんね。きみが待っていたのは、私じゃないよね。きみは、大好きな人をここで待ってるんだよね。

私とその猫は月明かりの中で遊んだ。そしていっぱいお話もした。

途中で、コンビニに買出しに行ったけれど、猫はその場所からは出てこなかった。

月が西のビルに隠れて、星を朝陽が追う。

「いっしょに、来る?」

始発電車なら、みかんの箱に入れて、頼み込めばグリーン車ならきっと乗せてもらえる。

「いっしょにおいでよ!」

手を伸ばすと、さっきまでは撫ぜさせてくれたのに、スルリと逃げる。

「捕まえるんじゃないよ。いっしょに行こうよ。」

そうだよね。きみにも都合があるよね。

お行儀のいい、その猫ならちょっと無理すれば、いっしょに暮らせるって思った。これだけいっしょにいても発作は出ないので、アレルギーも小さくなっているかも知れないし。

ビニールシートから、私が出ると、猫も顔だけ出している。

「じゃ、考えといて!」
「うにゃん!」

曲がり角で振り向くと、まだ、猫は顔を出して私を見ていた。
大きく手を振って、私は駅へ向かった。


次の日、少し早めにお店に向かい、寄ってみた空き地には、もう資材が運び込まれていて、みかん箱のお家も、お皿も、そこにはなくて、周りを探してみたのだけれど、猫も居なかった。工事の人に尋ねてみたけど、朝、来た時には、もうそんなものは無かったって、言われた。

元気でいるよね。いるに決まってる。

そして、また、幸せに暮らすんだよね。ずっと。

2004/09/28(火) side A:     月 そして 桔梗
今日は新潟まで行かないと、中秋の名月を見ることは出来ないと、朝の天気予報は言っていた。

学校が始まって、いっぱいいっぱいの毎日にまだペースが掴めない。

夏期休暇の間、私は半分ソープ嬢で、でも半分だけは私だった。

夏の名残と、すぐに迎える学祭の華やぎで、ちょっと浮つく学校でも私は装おう。

三分の一になった私は、あとの三分の二と上手く付き合うために時間を割き、私自身である時間は殆ど無くなってゆく。

ラス前まで仕事をして飛び乗る電車は、いつも一緒で、高校時代と変わったところと言えば、講義の終わりが遅いので、一本仕事が出来なくなり、その分休暇の時期と、週末と、祭日に長く仕事をするようになったことくらいかも知れない。

お家の門灯が見えて来て、顔を上げる。

低い雲は切れて、夜空は顔を変え、月の光が秋雲をしたがえて、中天に姿を現す。

見ることが出来たね、今日の月を。

桔梗と見上げる空は、驚くほど明るかった。

2004/09/24(金) side B:  それぞれの窓 あるいは 灯りたち
カーテンを開くと、見慣れた風景が広がる。

「ステキだろ?」
「すごいねぇっ!!」

もう何度も似たような会話をした。でも、この景色を、お金で買った私のために用意してくれる気持ちはうれしい。

「ちょっと近過ぎだなぁ」

観覧車の窓の人影は、肉眼で動きまで判る。私としたかった事を、その近さにためらうお客さんがちょっとかわいいそうになる。

「私ならいいよ」
「そう?でも・・・」

窓際から見える、遠い方のホテルの窓は、ただただ灯りにしか見えなくて、カーテンを引く動きと、灯される明かりだけが、時々景色の表情を変える。

近い方のホテルの窓には、人影の動きも見えて、デジタルズームをONにして、思い切り寄せていくと、いくつかの部屋では、ハダカで絡み合う姿態さえ見える。

地方から来るそのお客さんとは、軽く食事をしてビジネスホテルで過ごす外出しか経験がなかった。

「すごいなぁ・・・・」
「すごいねぇ・・・・」

液晶の中にはほんの1kmは離れていない、それぞれの窓の、それぞれの今がある。

でもそれは映画やビデオやTVとおんなじで、触れることも、交わることも無い、それぞれの空間だ。

観覧車の、最上部に近づくゴンドラの窓から見える人影は、約束のように抱き合って、接吻を交わす。そして、次のゴンドラも、次のゴンドラも。

「ま、いいか。せっかくだし。」

服を脱いで私達も交わる。灯りは消さないままに。

観覧車は回り続けて、色だけを時々変えていた

2004/09/23(木) side A:  お彼岸 あるいは あの一瞬
夏の名残が、すっと身を引いて、空に秋の雲が広がる。

妹と弟が祖母を支えて歩く石畳の道は、ほんの5年前には6人で歩いた道だ。そして、その中の一人は、今はお墓の中にいる。花束には、別に買った色を少し混ぜ、4人揃って手を合わせる。

あの年は、まだ私も祖母と手をつなぎ、ぐずりだした妹を父が抱き、弟ははじめから母が抱いていた。赤い彼岸花が揺れる道を、家族はみんなで歩き、祖父のためにお参りにいった。

みんなでのお出かけが嬉しくて、よそ行きの服と靴とお帽子が嬉しくて、私だけがはしゃいでいた。

父もネクタイをしてスーツを着、ピシッとしたワイシャツがカッコいいなって思っていたのに、抱いた妹が体をくねらせて、皺になってゆくのが、なんだか腹立たしかった記憶がある。

お墓の前にみんなで並び、お光を灯してお線香に火を点け手を合わせる。ちょっとだけ、祖父の顔を思い浮かべて、手を合わせていたと思う。

今年の私は、目を閉じて、長いこと手を合わせていた。

父のあの日が、そしてこの何年かで読んできた、父の歩いてきた道が、日々が、次々に浮かんできて、そしてその想いたちが、押し寄せてくる。

「どうしたの?」

って、妹の声に目を開く。

涙をぽろぽろ落としていた私に、3人はちょっと不思議そうな顔をしている。

少しずつ忘れていくことは悪いことじゃない。ずっと深いところにしまいこんでいくことも悪いことじゃ無い。それは判っている。

16才からの私を、こんな私のほんとの日々を、思い出してくれる人は、誰も居ないってことを、もう一度思ったりもした。

2004/09/21(火) side B:   陽のあたる場所 あるいは 私の居ない風景
絵に画いたような風景に、太陽がふりそそぐ。

お客さんと私を待つ席には、
当たり前だけど誰も居なくて
太陽が降りそそいでいたその場所にも
ブラインドが下ろされて舞台は整う。

私は踊る。
脚本の通りに。

登場人物は二人だけで
でも、
主役は一人だけだ。

私は、登場人物でさえ無くて
小道具か、風景なのかも知れないと、
気付いた。

2004/09/20(月) side B:   その5分前の風景 あるいは 切り取られる時間
面倒くさくなった。

外出が増えだした頃から、
みんな、みんな
毎回、毎回、
「写真を撮らせてよ」
とか
「ビデオいいだろう?」
とか、
部屋に入ってから、交渉が始まる。

断ると不機嫌になるし
「顔はダメだよ」
って言ったって、撮った後に、
「これくらい、いいじゃん!」
って、断ると、また不機嫌になる。

「何でも撮っていいよ。でも、外出の部屋に鞄は持ち込み禁止。ビデオもデジカメも私のを使って、編集してから、媒体は渡す。顔は無し。会話をしている時の声も無し。それなら外出OK」

勿論、眠っている間に撮られてしまえば、判りはしないけれど、その時はお客さんを見る目が無かったと諦める。

私の手元にある撮影したままの媒体には、色々な私が、色々なお客さんと、いろんな姿で映っている。

お客さんのところには、顔と声は無い、性器とカラダとあえぎ声だけの私がいるはずだ。

2004/09/19(日) side A:     あの日***をしていれば
封印した恋心は、いつまでもあの日のままで、その風景にいる私もあの日の姿をしている。

カラダを売るようになる前、私は一度だけデートをした。

それは、処女膜を売るイベントのほんの一週間前で、せめて何かの思い出だけは持っていたいと思ったのだと、今なら判る。

16歳で晩熟だった私はキスも知らず、性的な経験はもちろん皆無だった。抱かれたいという衝動は、もうきっとあったけれど、経験がまったくない私は、それにためらいというより、恐れの方が先に立っていたのだと思う。

デートは、結局彼の胸に顔を埋めて泣き、抱きしめられはしたのだけれど、頬にキスをしてもらえただけで、そのままになった。ううん、そのままにした。

洋服越しの肌のぬくもりを、今でもふと思い出すことがある。

処女を売ったあと、何度も電話をかけようとし、なんどもメールを書いては消した。

その時頭にあったのは、あんなことをした私は、もう彼と付き合う資格は無いんだとか、汚れちゃった私を見せたくは無いんだとか、ほんとに幼い思い込みの中にいて、もう会えないことで、自分を悲劇のヒロインにし、自分を愛していただけだと今は思う。

カラダを売り始めてからも、彼に抱かれたいと思ったことは何度もある。淫夢さえ見たことがある。そして、結局、私は今日まで、金銭を介さない性行為をしたことが無い。

抱かれなくて良かったんだなぁと、今は思う。

感情のある性行為を知っていたら、ヨワッチイ私は、ソープ嬢であり続けることは難しかった。誰かに頼り、誰かに甘え、そして失うのが怖くて、嘘をつき、その嘘につぶされていた気がする。

あれから4年近い月日が流れて、たくさんのお客さんと交わり、数えきれないほどの回数、性行為をした。でも、性行為は性行為でしかなく、感情とは少し遠いところに置いておける。

それが良いことでは無いとは思うけど、私にとって性を仕事とする限り、プラスになっていることは間違いはない。

私の封印した恋心は、あの日のまま、あの日にある。

手を繋ぐだけでドキドキし、向けてもらえる笑顔だけで、幸せにな気持ちになり、ちょっとした一言で、寂しかったり、嬉しかったり、涙が出たり。

そこには、髭もほとんど見えなくて、頬の産毛が夕陽に輝いていた、まだ華奢な少年と、腰も胸もまだまだ薄い、性を知らなかった少女がいる。

そしてその二人は、もうどこにもいない。

2004/09/18(土) side A:   夏の残り   
陽射しには夏の暑さが残り、その光が照らす海には、まだその色が残っている。

ほぼ20日ぶりにカバーを外すバイクのスポークには、うっすら錆が浮いていて、CRCを少し布につけてぬぐってみる。

布に、ベージュのラインが付いて、ホイルもコンパウンドで少し磨く。

お店とお客さんに頼み込んで、西へ向かう予定のお客さんと外出先で逢い、そして別れることを許してもらう。

エンジンの鼓動を感じながら、1時間と少しの道を走る。少し早めにホテルに着いて、ヘルメットとライダースと、グローブはフロントに預ける。

シャワーを浴び、髪もしっかりブロウして、ワンピースに着替えてお客さんを迎える。

そして、10本分の仕事を終え、タクシーに乗り込むお客さんを最敬礼でお送りして、海沿いの道を走る。

西に陽が傾くと、ライダースを着ていても、秋の風を全身で感じる。

久しぶりに寄るサンドウィッチショップの中は、一年中夏なのだけれど、窓の外の季節は変わる。

2004/09/17(金) side A:   窓  
まだ夏の色の残る空に、ほんの少しの夕暮れ色に追われて、いわし雲が東に急ぐ。

切り取った風景が、窓から見えている。

ソファーの右端から左端に、座る位置を変えるだけで、風景は変わる。

ガラス戸を開いてベランダに出てみると、風景は広がって、右も左も、空も海も見えるけれど、明るい光に慣れた目で振り返る、部屋の中は、暗くて見えない。

プールサイドのガーデンに水を撒いている、人の良さそうな年配のスタッフと目が合う。

「いいところですね。」

「ありがとうございます。ゆっくりおくつろぎください。楽しい休日を!」

軽く会釈して、部屋へ戻る。

レースのカーテンだけを引いて、バスロープを脱ぎ、少し柔らかくなった光の中で、ひざまずき、シャワーから戻ったお客さんのペニスを口に含んで、そして、私の仕事は始まる。

本気で、窓越しに、スタッフは、幸せそうなカップルの、楽しい時間を祈ってくれているかも知れないのだけれど。


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